九月です。丸い不思議と書きました

帰り道に書道教室の入り口を通るのだが、あるとき、「不思議」と大きくこどもが書いた習字の書が掛けられていた。春くらいだったと、おもう。「ほろびないようにね」とわたしは言われていた。「ほろばないかな。ほろびない? どっち?」

夏にはいって、わたしがよろよろしていたころ、同じ入り口の同じ場所に「丸い」と大きくかかれた習字の書を見た。ところどころにGが掛かったような、ゆがんだ、おおきな、こどもの、まだこれからをふくんだ、でもわたしたちがもうとりもどせない、まるい。だった。ほろぶこともなくわたしは生きていて、やせたりふとったりしていた。

習字を、ありがとう。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター