捨てられない捨てられないと11月にいう

散歩していたら、あるいていたひとが、「きょうすごく月でかいね」と言った。あと、「もうすこしそれ、考えてみるね」とも。「あ、ああ、うん」とわたしはいう。「わすれちゃってもいいんだ。すてちゃっても」
月の話をしながら、あるく。デパートの上においしい中華料理屋があって、そこで直射日光にさらされながらチャーハンを食べたことがあったよ、でもふしぎとしにたいきもちはなかったな、とわたしはいう。なんかでもすごくわるいにんげんだったきがする、チャーハンをたべてても、ずるいにんげんだったきがする、とわたしがいうと、そのひとは、わたしも、という。秋の夜ってなんなんだろう。あるきたくなったり、はなしたくなったり、そうしたくなくなったりする。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター