熊(たにん)がどういうわけかたすけてくれたふしぎ

メリークリスマス、と声にだしてあんまり言ったことがない。なんでだろう。

現在のスクルージが、亡霊のジミニー・クリケットといっしょに、過去のじぶんを窓越しに見ている。 そんなディズニーのクリスマスキャロルの陶器のフィギュアを持っている。窓のむこうのあたたかい部屋。若いじぶんはまだ恋もしらない。デイジー・ダックの手をとり、音楽にあわせて踊っている。ぶどう酒やひかりかがやく七面鳥。雪のふる暗い通りからスクルージはパジャマのままで、過去のじぶんを、失ったじぶんをじっと見ている。スクルージはジミニーにいう。こころがだめになりそうだ。もう連れて帰ってくれ。

そのフィギュアをずっと持ってる。どうしても越えられない窓ってあるんだろうなとおもう。どうして、今、こんなんなっちゃってるんだろう、と。そういうことをスクルージはクリスマスの日におもった。わたしもクリスマスに何回かそんなふうにおもったことがあった。どうして、今、こんなんなっちゃってるんだろう。

一年たって、またクリスマスに向けてクリスマスキャロルのことを書く。希望でも絶望でもなく、いいことでもわるいことでもなく、そのまんなかのようなことを、クリスマスに向けて書く。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター