ふつうのトレーナーの夜、詩が届く

成人式にいくひとはいつもテレビでスポットを浴びているけど、行かないひとはどれくらいいるんだろう。いかなかったひとやいけなかったひとはどれくらいいるんだろ。

わたしは行かなかったひとだ。でも、なにかしなくちゃ、とおもって、大好きだった詩人の津村信夫の何万かする全集を買ったとおもう。それが二十歳になったときにしたことです、ってじぶんであとでわかっておくために。いいわけをするために。ふつうのトレーナーを着て、郵便局でお金を振り込んでいる二十歳になったじぶんがいる。ときどき、着物姿のわかものたちが郵便局のウィンドウのそとをゆきかう。まちがったことしてるかもなあ、とATMのザッザッザッという音をききながらおもう。たぶんまちがったこと。でもたいていのことはまちがってここまできたから。とおもう。後日、真っ青なボックスで三巻の津村信夫全集がとどいた。燃えるような青だった。しずかなよるだった。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター