再会のドーナッツでもわたしとけ

パン屋さんで福引きをまわしたら、誰もわたしがまわしているところを見ていなくて(いいかこれから玉をだすんだ、見ててくれ、とは言わないけれど)、困惑しながら奥にきえた店員のひとのあとで、奥から「ドーナッツでもわたしとけ」と聞こえた。

福引きの玉がでるところは玉がでたままになっていて、つまり玉だらけで、わたしもどんな玉がでたのかもわからなかった。でもまあドーナッツならいいね、というきもちもあった。ドーナッツをてわたされていやがるひとっているんだろうか。ふしあわせなかおをするひとが。

「ドーナッツでもわたしとけ」

ときどき、おもいだそうとおもう。じんせいのチャンスやピンチのときに。マイクを持ったときや間に合わなくて走ってるとき、あたまをさげてるときに。あいつにはドーナッツでもわたしとけ。あまいなにかが、むこうからくる。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
 1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
 1981年、兵庫県生まれ イラストレーター