雪女急におなかがいたくなる

きれいな景色をみているときに、具合が悪いんですか、ときかれることがある。じぶんはきれいなものをみているときに具合が悪い顔をしているのかなあとおもう。初登場時のドラえもんのように猫背で、むっくりしていて、肩も張り、深い青も強く、でもきれいなものをみている。これはきれいなもの、とわたしは思う。ひにてらされて、安心できるひともいて、やるべきこともおわっている。いろんなことをしっていて、わかってる。今まで出あったひとたちの顔。

いきのびるっていいことだなあとおもってしまう。「いきのびるといいことがあって、思いがけない誰かと会話ができる。いきてなかったら、そのひとがそんなこと考えてたなんてわからないまましんでたかもしれない。いきのびることのいいことって、シンプルに、会話ができるってことだとおもうんです。いきて、ことばをきいて、話して、おもって、またくらくなって、でもいきていく。まただれかがやってきて、会話する」「ほんとですね。ほんと、いま、そうおもう。いきのびなきゃ」

水の音や鳥の声。ドラえもんのことも、もう、思い出さない。具合が悪いんですか、ときかれながら、きれいと呼ばれるものとむきあっている。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター