おはようって詩 家にいてね家にいてね

ステイ。家にいて、家にいてね、といわれる状況のなかで、なにかたのしいことをしようとおもって、冷凍のおもちゃのようなケーキをたべた。だいじなときにたべるといいよ、といわれて、そうやってずっとしまわれてあったものを。冷凍庫をあけるたびにいつもそれがいつくるのかなとおもっていた。こないでいいかも、とも。

たべるとき窓からちらっと桜がふっているのがみえて、そのふっていく桜をちっちゃな雪がおいかけていくのもみえた。ぜんぶ、まどのなかにあった。

きょうは時間がたくさんあるから電話をかけてもいいかもしれない。家のベランダからみえた桜と雪をデータで送ってもいいかも。きのうテレビでみた、家にずっといる祭り嫌いでアルコール依存症の中年男性が主人公の芝居の話も。かれは御輿をかつぐひとたちが不思議だっていう。世界は御輿をかつぐひととかつげなかったひとに分けられている、と彼はいう。

わたしは家にいる。電話をかける。

ひとはときどき電話をかけて電気を通してつたえたりする。「おはよう」


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター