さよならの円のひとりになったこと

街はいつもより暗くて、水族館みたいなバスが光り輝いてはしってる。バスってこんなだったかなとおもう。

食べるものを買いにいったら、よく行っていたカフェがさいごの戸締まりをしていて、そこで働いていたひとたちが円になってお別れをしあっていた。「でも、また」といっていたひともいた。

円の一員になったことっていままであったかなとおもう。さよならの、おわかれの、円をつくるときの、その丸のいちぶぶんにいままでなったことがあったかなと思いながら、水族館みたいにぴかぴか光るバスに乗って帰った。

くらい、おおきな坂道を、大きな魚のようにくだってゆく。どうしてこんな四角い船のような乗り物をひとはつくったんだろうと、夜におもう。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター