今飼ってる犬 前飼ってた犬 ○を描く

ふだんあんまりひとの夢の話をきいたりはしないし、じぶんから話したりもしないんだけれど、「森の中の駅みたいなとこにいてね」と電話でそのひとがとつぜん夢の話をしはじめたのを、買ってきたばかりのマクドナルドの袋に手をいれて、がさがさしながら、少し、きいた。

「円を描けっていわれてね。夢のなかではそういう仕事だったのよ。でもね、森の中じゃない? うまくかけないのよ。じめんがでこぼこして。森ってたいらなとこあんのかね」「うまくさがせばみつかるんじゃないの。ここ、ってとこ」「でも、ゆめだからね。ゆめんなかって、かんがえがまとまりにくいね。すこしじぶんがおろかになってるかんじでね」

マクドナルドのふくろはまだあたたかい。ときどきわたしはじぶんを傷つけるくらいにたくさんのハンバーガーを食べることがある。じぶんでも、どうかしてる、と思う。そのことについてもあんまりひとに話したことはない。赤ずきんの狼みたいなもん、とも思う。

「あの、へやの壁に前飼ってた犬のしゃしんを貼っててね、ぱっと起きたとき、目がさめてすぐ、そのしゃしんの犬と目が合ったね」

あと一緒に買ったドーナツは思った通りおいしかった。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター