いつでも声をひそめて「わすれたものはすてたことなの?」

数年ごとにてがみをくれるひとがいて、きのう別れたみたいになんでもないてがみがくることがある。時間が許してくれたみたいに。ちょっとお茶にいきましょう、とか、散歩に行きましょう、とか。どう声をかけていいかわからないまま六年が経ってしまいました、とか。わたしたちが許したんじゃなくて、やっぱり時間が許したのかなともおもう。わたしは返事を書く。いつでもこえをかけてくれるとうれしいですよ。ほんとうはもっとりっぱなにんげんになっていたかったんだけれど。返事はださずに置いておく。

いつでもさそってくれていいのにっておもうけれど
でもいつでもさそわれてもいつでもいかないんだろうなあ
いつでもなんにもないのに
と、夜、部屋のそうじをしながら思う。そうじのポイントはうしなっていくことだよ、といってたひとがいた。うしなうこと、と私は繰り返す。

もしかしたら、いっしょに散歩にいきましょう、というのは詩のつもりで書いたのかも、と思った。でもそれが詩だとしても、それでもまた会うのかも。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター