最後の風景 でも皿でたべるようになった

ねっころがって、なんとなくカフカの『城』の映画をみていたら、ベッドから役人が「どんなに絶望的に思えたとしても、ふとしたしぐさ、ちょっとした目線で人生は一変するんですよ」とKにむかって話していて、ふと、ちゃんとした皿のあるせいかつをしようかなとおもった。コンビニのケーキなんかも皿にのせてちゃんと食べる。そういう生活。お城。

外に出て、でんしゃにのって、駅を降りて、ムーミンショップに入って、ムーミンの食器をなんとなく見る。わたしはぜんぜんムーミンと無縁のじんせいでこどものころもムーミン関係のものはいっさい与えられなかったが、どうしてムーミンにたどりついたんだろう、とひとにときどき聞くこともある。相手はだまっている。

海べりで、もうふをかぶり、すわって、みんなで夕焼けを見ている絵皿を買った。ほろぼすための彗星が、すれちがい、去ったあとなんだと思う。少しだけ波が立っている。ミイとフローレンはねむり、それ以外のみんなは、落ちてゆく夕日をみている。終わりだと思ったら、まだ終わりじゃなかった。でも最後の風景があるとしたらこんな感じなんだろうなっておもう。すわる場所があって、かけるための毛布があって、地球がくれた光を見ている。たまたまの誰かがいる。帽子をかぶったひと、かぶっていないひと。

コンビニでエクレアを買ってきて皿にのせて食べた。さいごどうしよう、っていつも思ってる。なににかんしても。皿でちゃんとたべても終わり方がわからない。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター