・があるこの星でザ・風に吹かれてる

倉本朝世さんのこんな句が大好きだ。

  たったひとりを選ぶ 運動場は雨  倉本朝世(『硝子を運ぶ』)

私はたったひとりしか選べない。誰に教えられるともなく、子どもの頃からなんとなくそう思って生きて来ていること。

「選べるのはたったひとりだよ」

あの冷たい体育館で体育座りをしていたときに校長先生が放った言葉。「みなさん、今日の私の話はたった一言です。どうか、たったひとりを選ぶんです。これで私の話を終わります」

昔、前に出てこの句について話したとき、どうして運動量は雨だったのか話したように思う。運動場は機能不全なんです、とかなんとか。でもそのほとんどは忘れてしまった。私が今思うのは、雨の運動場は私にいろんなことを考えさせるということだ。

運動できないということ、外に出られないということ、傘を忘れてしまったということ、教室内で外の雨を見ながらふっとあなたが話してくれた家族のこと、運動場のサッカーボールや鉄棒や朝礼台がぐしょぐしょになっているのを私は見ていること。

まだ何も知らない私たちが未来でほんとうにたったひとりを選ぶことができるかどうか。運動できない運動場のようにそれは私に何かの暗さや重さを持ってくる。

小学生の頃、私は同じ小学生だったちいさなひとたちと、いくつか未来に関することを話したようなきがする。それはなんの理由もなく明るかったり、わたしやあなたをふいに笑わせていた。笑いながら「きょうこれから髪を切りにゆくの」とあなたは言った。それから明るいところに出て行った。

  天の川まで前髪を剪りにゆく  倉本朝世


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター