いいよね 呼ぶとスズランになる

ふと、こゆびでものを書くってことができたらいいのになあ、とおもった。この世界にまだ生まれていない、あわいのようなものができる。「またへんなの書いたね」とあなたがいう。あなたはがっかりしているのか、でも光の加減で顔はみえない。わたしはときどきふらふらして、初夏の風のなかで、木に頼ったりする。そうして、こゆびでものを思い、こゆびでものを書いてみることをかんがえる。つかったこともない、つかおうともしなかったゆびで、ものを書くことを。

書いたものを、また、あなたに手渡す。風。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター