「夏のなかに冬があるのね」 夏の冬眠

むかし、あるところに参加したらふとその場にいたひとから、「なんで来たの?」と言われたことがあった。これは、「なんでここにいるの?」という問いかけで、でも確かに自分もなんでここにいるんだろう、と思い、「すいません、ぼくもなんでここにいるかわかりません」と答えてしまった。

なんできたの?

モスで番号札を立ててハンバーガーを待っていてもふいにあたまに浮かぶ。「なんで来たの? なんのためにあなたここにいるの? なぜいきてるの」

そのしつもんは、たまたま夏や、たまたま冬にもやってくる。ひとといてすごくいいかんじのときもやってくる。なんできたの?

この世界にはいつもどこにでもいるようなひとがいるいっぽうで、いつもどこにでもいないようなひとがいて、そしてその不思議な人間がたまたまわたしやあなたであり、だからどこかにいると、なんでいるの? ときかれてしまう。

どうしていえでねむってなかったの。おはなしみたいに。

答えなければならない。「こうこうこういうわけでここに来ました。このためです。じぶんのあしできました。きもちはここにあります。ここにいます」

いるために、今日、しつもんに答える。そういう、なにか、じんせい。


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター