傷ついた虎から虎がはえてくる

38さいから11年ひきこもり続けた「ひきこもり先生」というドラマが佐藤二朗さん主演で放送されていた。

不登校クラスの先生になったもののふとしたことがきっかけでまたひきこもってしまう。まっくらやみの、液晶の光が灯る部屋、パジャマで、「またあの11年がはじまるよ」と先生がつぶやく。この「またあの」って傷をかかえたひとがみんな持っている枕詞なんじゃないかと思った。傷ついたひとのまくらことば。またあの、という絶望。その回のタイトルは「戦場」だった。

ぜんぜん違うドラマなんだけれど、さいきんこんなセリフをめにして、すぐにメモに書き留めた。

「四つ葉のクローバーの探し方ってしってる? 絶対見つかると信じてさがすんだよ」

きずときぼう。

ひきこもり先生はさいごにみんなでグラウンドに横になる。生徒も先生も校長も。ひきこもりで家でずっとひとりで何年もねむっていたひとが、そとでみんなでよこになる。いろんな寝姿とつながってゆくこと。絶望してねむるひと、平和をもとめて戦車のまえでねむるひと、明日会えることがうれしくてそれでもねむるひと、ながい仕事を終えてねむるひと、ふたりでねむるひと、ただきょうをねむるひと。ねむることでおわったのに、ねむることではじまる。最終回のタイトルは「できる、できる、できる」


『バームクーヘンでわたしは眠った もともとの川柳日記』(春陽堂書店)柳本々々(句と文)・安福 望(イラスト)
2018年5月から1年間、毎日更新した連載『今日のもともと予報 ことばの風吹く』の中から、104句を厳選。
ソフトカバーつきのコデックス装で、本が開きやすく見開きのイラストページも堪能できます!
この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)
1982年、新潟県生まれ 川柳作家 第57回現代詩手帖賞受賞
安福 望(やすふく・のぞみ)
1981年、兵庫県生まれ イラストレーター