世界中の野生動物や自然の風景を追い求めてきた動物写真家・井村淳。なかでもアフリカでの撮影は26年にも及ぶ。彼は今年の4月に、ケニアへ39回目の撮影旅行を終えて帰国した。サバンナの雄大な風景と、そこに生きる野生動物の姿をとらえた撮りおろし作品を、旅のエピソードとともにおくる。

第2回 朝日とともにサファリへ
 ケニア共和国の首都ナイロビから、野生動物の宝庫であるマサイマラ国立保護区へは、小型のプロペラ機で向かいます。国際線が離発着するジョモ・ケニヤッタ国際空港ではなく、ウィルソン空港という小さな空港から飛び立ちます。乗客の予約状況によって、定員に合わせた飛行機に大きさも変わります。ウィルソン空港は国際線よりも荷物の重量制限が厳しく、持ち込み手荷物も1人15キロまでです。もちろん、それだけではカメラなどの機材を持ち込むことは無理なので、超過料金を支払うか、飛行機の席を子ども料金でひとつ余分に購入することもあります。グループで行くときは、ほとんど日本人が好んでハードタイプのスーツケースを使うので、小型の飛行機には積みきれなくなることがあります。ですから、日本から持参してもらったソフトバッグに荷物を詰め替えて、スーツケースはナイロビのホテルで預かってもらいます。

マサイマラN.R.に向かう小型機、14人乗りの機内の様子。

 マサイマラ国立保護区(N.R.)は面積が1510キロ平方メートルあるので、保護区の中にはいくつかのエアストリップ(草原の中にある未舗装の滑走路)があります。これも予約状況により回り方が変わります。1番目に降りるエアストリップの場合、45分ほどで到着します。チェックイン時に、自分の降りるエアストリップが何番目かを確認しておくとよいでしょう。間違いが無ければ、降りたところまで車が迎えに来てくれます。

マサイマラN.R.に向かう途中に見えるグレートリフトバレー。

 成田空港を出発してから46時間。ようやくサバンナに到着しました。この時期のサバンナは雨季なので、青々とした草原が一面に広がっています。今年はケニアが異常な雨量で、各地で水害が報道されていました。サバンナも雨量が多く、草が元気に伸びて丈が1メートルを優に超えていました。草が成長しすぎると、残念なことに動物の姿が見えにくくなります。そして、草食獣がいないところには、肉食獣もいなくなるという現象が起こります。草食獣にとって天敵の肉食獣がどこに隠れているかわからなくなるので、そういう場所にはいたくないのでしょう。

 エアストリップで国立保護区のパーク・フィー(入園料)などを支払い、迎えに来てくれたサファリカーに乗ります。ドライバーと最近の動物の様子やコンディションの確認を一通り済ませると宿に到着です。宿はサバンナのど真ん中で、ブッシュ(bush)と呼ばれる茂みに建てられていることが多いです。今回泊まった宿は初めてですが、一般的なテントロッジという形式です。テントといっても中にはベッドが1つか2つあり、シャワーと洗面台、トイレを備えています。コテージタイプよりも宿泊料金が高額なことが多いです。

(左)一部屋ずつ離れているテントロッジ。ロビーもテント。
(右)テント内には水洗トイレ、キングサイズのベッド、温水シャワーがある。

 敷地の周辺は頑丈な柵がないので、野生動物の生活圏の中であることを滞在中は忘れてはいけません。宿にもよりますが、チェックインの際は同意書に署名を求められます。自分のテントから食堂エリアやサファリに行くときに、野生動物と出会うことがあります。特に暗い時間帯は危険で、マサイ族の人がアスカリと呼ばれるガードマンをしていて、必ずエスコートをしてくれます。つまり、「エスコートなしで勝手に歩き回って何かあっても自己責任です」という同意書に署名をするのです。

 自分のテントに到着すると必ずはじめにするのが、電源の確認です。少し前までは電源タップがないのが普通でしたが、最近は誰もがスマホやパソコン、デジタルカメラを持っていて充電する必要があるので部屋に電源タップがあることが多いです。以前は宿泊客みんなが集まる食堂やロビーエリアにしか電源タップはなく、共同で利用するのが普通でした。たまに自分の充電器がなくなる等のトラブルもありました。部屋に電源コンセントがあっても、自家発電している宿の電源は24時間ではないので、稼働の時間帯も確認しておきます。この宿では5:00〜8:00、18:00〜23:00くらいでした。
 電源の確認後、僕は電気回りの設定をします。自分では「パワーステーションを組み立てる」などとつぶやいています。コード付きの電源タップに三つ又のタップを2つ使います。カメラの充電器やスマホ、パソコンなどで5〜7口必要になります。もちろん容量がオーバーしないことも確認します。

電源タップはカメラ用3つ、パソコン、スマートフォン、
USBハブ、プリンターで7口は必要。

 僕の基本的なサファリでの活動時間は、夕方3時半から日没までの3時間ぐらいと、日の出から昼前までの5時間ぐらいです。お目当てのネコ科動物を探しながら、途中で出会った動物を撮影するという感じです。日の出と日の入りの時間帯は、地平線上の動物のシルエットに太陽を絡めるという構図を狙います。僕のパートナーでもあるドライバーのサミーとは10年来の付き合いで、今では何も言わなくても僕の狙いをわかってくれます。

 太陽が雲で見えないとき以外は、朝夕は動物と太陽の絡みを毎回狙うのですが、朝日や夕日がきれいでも肝心な動物がいないこともしばしばあります。そんなときは、なかば妥協してシルエットの良さそうな木をポイントに探します。「もう少し先に行けば良い場面があるかもしれない。でも、いなければ何も撮れずに終わってしまう。少し手前にいたシマウマのところに戻るかどうするか、早くしないと太陽が行っちゃう!」などと、毎回葛藤しています。また、早めに地平線上におあつらえ向きの動物が見つかることもあるのですが、「太陽がちょうどいい位置にくるまで動かないでね!」 と念じながら待ち続け、ようやくあと10秒というところで動物が去ってしまうという苦い思いも幾度となく経験しています。

左)撮影に臨んだものの、動物が見つからずしぶしぶアカシアの木を撮影。
(右)夕日と重なったときに首をあげてくれたシマウマ。

 太陽の中に動物を入れるという構図は、夕日のときは比較的狙いやすいです。赤道に近いマサイマラでは、見えている太陽がほぼ真下に沈んでいくので余裕を持ってどういう構図になるか予想がつきます。しかし、朝日は昇ってみないと確実な位置はわかりません。いち早く昇ってきた太陽のてっぺんを見つけ、「サミー! 太陽が出てきたよ。ちょい前出して!」と、サファリカーを動物と重なる位置へ微調整する必要があります。超望遠レンズで狙うときは数センチの違いでも大きくズレてしまいますし、超望遠レンズで狙う太陽は、みるみる移動するので、シャッターチャンスは意外にも一瞬しかないのです。

カメラポジションの微調整をしながら、
朝日の中にトピ(ウシ科の動物)をおさめたショット。

次回は宿の食事などをご紹介します。


徐々に色づいてきた朝焼けの空に雄ゾウのシルエットが重なった。 

夕日をバックに飛び立つソウゲンワシ。

夕日を見つめる若いライオン。


≪≪著書紹介≫≫
『ALIVE Great Horizon 』 (春陽堂書店)井村 淳(著)
アフリカ、ケニアの動物たちを撮り続ける、カメラマン・井村淳の集大成!厳しい自然の中で生きる動物たちの日常を切り取った写真は、まるで人間の家族の姿を映し出しているかのよう。
ライオン・チーター・ゾウ・シマウマ動物たちの温かいまなざしが感じられる写真集。

この記事を書いた人
井村 淳(いむら・じゅん)
1971年、神奈川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。風景写真家、竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。チーター保護基金ジャパン(CCFJ)名誉会員。主な著書に『流氷の天使』(春陽堂書店)、『大地の鼓動 HEARTBEAT OF SVANNA——井村淳動物写真集』(出版芸術社)など。
井村 淳HP『J’s WORD』http://www.jun-imura.com/