世界中の野生動物や自然の風景を追い求めてきた動物写真家・井村淳。なかでもアフリカでの撮影は26年にも及ぶ。彼は今年の4月に、ケニアへ39回目の撮影旅行に旅立った。サバンナの雄大な風景と、そこに生きる野生動物の姿をとらえた撮りおろし作品を、旅のエピソードとともにおくる。

第1回 ケニア旅立ち準備編
知らずに飛び込んだ初めてのサバンナ

 2018年4月25日、僕は東アフリカに位置するケニア共和国の草原、サバンナに向かうために成田空港に到着しました。車をあずけ、空港のターミナルへと入ります。

 アフリカのサバンナと聞くと、「熱く乾いた厳しい環境で動物が暮らしている」と想像する方も多いでしょう。ご多分に洩れず、当時20歳の僕も最初はそんなイメージしかないまま、ほとんど下調べもせずにケニア・ツアーに参加しました。テレビでしか見たことがなかった野生の世界へ、期待に胸を膨らませながら旅立つ準備をしていたことを思い出します。

「何が必要だろう。あれもこれもあったほうがいいかな」などと用意をしているうちに、荷物が馬鹿みたいな量になってしまい、撮影機材もあるから量は少ないほうがよいと後になって気がつきました。着るものは現地で洗濯して着回せばいいので、Tシャツとパンツは数枚にし、整腸剤や目薬などの薬と、帽子代わりのバンダナをスーツケースに詰め込みました。
 あれから26年、今回が39回目のケニア旅行です。

いつも荷造りに悪戦苦闘

 さて、僕、井村淳の自己紹介をします。僕は自然の風景や野生動物を撮影するフリーランスの写真家です(詳しくは僕の公式ホームページをご覧ください)。ですから、僕がサバンナに行く目的は、もちろん、野生動物の撮影です。

 旅支度のときは、荷物は撮影に必要最低限にするべきとわかっていながら、26年前と変わらず悪戦苦闘しながら荷造りをしています。飛行機の荷物の重量制限がますます厳しくなってきたこともあります。

 39回もサバンナに通っていると、現地のエージェントに荷物を預かってもらえるようになり、今では一脚や三脚、小型プリンターなど、およそ20キログラムのバッグを保管してもらっています。おかげで荷造りがかなり楽になりました。僕は、さすがに機材までお願いするほど図々しくはなれません。「一度でいいから手ぶらで海外旅行をしてみたい」というのが僕の密かな夢です。ちなみに、三脚は僕が講師として同行している撮影ツアーのときに記念撮影をするためのもので、プリンターはツアーのお客さんに「撮れたて」の写真を見せたり、プレゼントをするためのものです。

 サバンナでの野生動物の撮影は、被写体との距離が遠い場合もあるため超望遠レンズは必須で、空も撮影できる超広角レンズを入れると4本くらい必要です。カメラのボディ(本体)は、レンズ交換をしているときにシャッターチャンスを逃さないことと、ホコリっぽい中でのレンズ交換をなるべく避けるために3台持参します。全部合わせるとかなりの重量です。

ケニアで使う標準的な撮影機材。レンズは11~24mm F4、24~105mm F4、100~400mm F4.5~5.6、500mm F4。
カメラは3台ともフルサイズセンサーを使用。

 さらに昔は、機材に加えフィルムが200本以上プラスされていましたが、今はそれがノートパソコンと周辺機器に代わり、プラス・マイナス・ゼロといった感じです。ただ、撮影データを外付けハードディスクに保存するので撮影枚数の上限が多くなり、残りの枚数を気にせず存分に撮影ができるようになったのは、ありがたい進化です。

ノートパソコンとカードリーダー、ポータブルHDD2つ。

 ところで、ケニアの電圧は240ボルトです。以前は、日本から持ち込む製品は電圧に気をつけなければなりませんでした。過去に一度、充電しようとチャージャーをコンセントに差し込んだら数秒後に火花が出て血の気が引いた覚えがあります。そのチャージャーが110ボルトまでと知らず、変圧器を利用せずに使ってしまったという完全な僕のミスです。カメラがデジタル化したことで、フィルム時代に比べると現地でのバッテリーのチャージは生命線です。充電ができないということは、つまり、撮影ができなくなるということです。このときは、幸い別のチャージャーが使えたので撮影を続行することができました

 最近の撮影機器やパソコン関係の電圧は世界共通で使えるものがほとんどですが、必ず表示を確認し、大丈夫なものを選んで持参します。おかげで重たい変圧器はいらなくなりました。僕はコンセントの変換プラグと延長コードと電源タップを持参します。

ケニアの一般的なコンセントの形。

 他に用意するものは、現地のドライバーへのお土産です。彼らの好きなお菓子を選んで持っていくのですが、最近は「歌舞伎揚」(天乃屋)が大人気。続いて「白いブラックサンダー」(有楽製菓)、「ミルキー」(不二家)です。最初は何気なくあげたお菓子だったのですが、「これが好き!」と言われました。彼らは、はっきり言うので好みがわかりやすいです。海苔のついたせんべいはあまり人気がありません。

いよいよ、ナイロビに到着

 野生の王国サバンナは、ケニアの首都ナイロビから向かいます。国際線のルートはいくつかありますが、僕がよく使うのはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ(デュバイ)経由のエミレーツ航空、または同じUAEの首都アブダビを経由するエティハド航空です。他にも、カタール国の首都ドーハを経由するカタール航空など、中東経由が行きやすいです。今回は価格が安かったエティハド航空を選択し、成田発、アブダビでトランジットをしてナイロビに行くというルートです。成田からアブダビまで12時間くらいで到着し、トランジットは8時間半と長いので、ターミナルホテルを予約しました。6時間くらいしか使わないのですが約1万8000円とやや高めです。でも、シャワーを浴びたり、ベッドで横になることもできます。そして、アブダビからナイロビは5時間のフライトです。

ナイロビの空港に到着。

 ケニアに入国するときは、出発前に日本でケニアのEビザ(観光)をインターネットからオンラインで取得し、出力したものを持参します。出入国審査を通過すると入国完了となり、その先のターンテーブルから出てくる自分の荷物を待ちます。25年前は、裏で荷物が開けられて中身が抜かれていたり、他人の荷物が自分のバッグに入っていたりということが珍しくなかったのですが、最近はバックヤードのセキュリティーも強化され、ちゃんと荷物が出てきます。荷物をピックアップしたら税関ですが、かなりの確率で僕は荷物を開けさせられます。係の人の気まぐれにしか見えませんが。こんなに実直そうな顔をしているのに不思議です……。

 カメラをたくさん持っていると、「許可は取ったのか?」とか、「ケニア内でこのカメラを売るんだろう」などと係員に因縁をつけられます。幸い英語が堪能ではない僕は、ほとんど相手の言っていることの意味がわからずポカーンとその場をやり過ごします。

宿泊したホテルからの眺め。近代的な高層ビルが急増している。

 税関を通過すると、待ち焦がれたケニアの空が見えます。カラッと乾いた空気が心地よく、青い空とぽっかり浮かぶ白い雲が迎えてくれました。まずはナイロビの街にあるホテルへチェックインです。日本とケニアの時差はマイナス6時間です。
 そして、いよいよ次回は動物たちが暮らすサファリへと向かいます。

広いサバンナに佇むマサイキリン。

チーターの親子。

威風堂々としたライオンの雄。

夕方の光に浮かぶヒバリの仲間。


≪≪著書紹介≫≫
『ALIVE Great Horizon 』 (春陽堂書店)井村 淳(著)
アフリカ、ケニアの動物たちを撮り続ける、カメラマン・井村淳の集大成!厳しい自然の中で生きる動物たちの日常を切り取った写真は、まるで人間の家族の姿を映し出しているかのよう。
ライオン・チーター・ゾウ・シマウマ動物たちの温かいまなざしが感じられる写真集。

この記事を書いた人
井村 淳(いむら・じゅん)
1971年、神奈川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。風景写真家、竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。チーター保護基金ジャパン(CCFJ)名誉会員。主な著書に『流氷の天使』(春陽堂書店)、『大地の鼓動 HEARTBEAT OF SVANNA——井村淳動物写真集』(出版芸術社)など。
井村 淳HP『J’s WORD』http://www.jun-imura.com/