「どうしてジムに通おうとおもったんですか?」「このままだとほろびるとおもったからです」

大学のころ、すごくショックをうけたラジオドラマがあって、なんども聞いた。それは主人公の声を歌手の谷山浩子さんがあてていたのだが、のちにそれは川上弘美さんの『神様』だったことがわかる。

川上さんの『神様』はなんども読んだ。

わたしがこのほんでまなんだことは、けっきょく、ひとはひとに対してことばでどうこうできたりもしないんですよ、ということだったのではないか。

『神様』では別れがなんどもなんどもやってくる。主人公の「私」はなんどもなんども別れを経験し、泣きながら、それでも変化せず、生きていく。

ことばをつかえばどうにかなるんじゃないかとおもうことがある。でも、そうじゃなくて、ことばでだってどうにもならないことをわかっているものこそがことばなのではないか。

別れるときにわたしを抱きしめた熊がいう。熊の神様とひとの神様はちがうものなんですね。ほんとうにちがうのかどうかはわからない。おなじかもしれない。でもふたりは線をわかちあう。ひとと、くまとの。

わたしにとってもそういう線の季節があった。あなたと、わたしとの。別れるときのハグはなくて、おじぎだったけど。風のなかで律儀にふたりがおじぎしあったせいで、切ったばかりの髪がゆれていた。

この記事を書いた人
yagimotoyasufuku
柳本々々(やぎもと・もともと)1982年、新潟県生まれ 川柳作家
安福 望(やすふく・のぞみ)1981年、兵庫県生まれ イラストレーター