追いかけられて風になってしまうよ
高校のころ、祖母の家においてあった水木しげるの『河童の三平』をよく読んだ。
『河童の三平』で有名なシーンがある。三平となかよくなった狸が地獄からの風が吹くなか、三平の思いがけないふとしたお願いに、「そ、そんなこと、たやすいことだ…」と涙を流す。
サンガッツから狸のソフビもでるほど有名なひとこまだが、この「たやすいことだ」に象徴されるように、『河童の三平』は「お願い」の物語だ。いろんなお願いが物語のなかで交錯する。三平に似た河童は三平のふりをし、死神は死ぬ期限を延ばすようお願いされる。お願いが、ゆきかう。
そのなかで、ひととひとが、ひとと河童が、ひとと狸がであい、むすびつき、わかれる。強い風が吹いている。風のなか、狸はほんとうに必死に三平の背中を追いかけた。たったいちどの、たったひとつのお願いをきくために。