ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。


【連載5】
大事なのは、よりよくすることを考え続けること
本屋B&B(東京・下北沢) 内沼晋太郎さん


本と人を結びつける“場所”を生み出す仕事

「これからの街の本屋」をコンセプトに、ビールが飲めて毎日刊行イベントを開催する「本屋B&B」が2012年7月、下北沢駅近くに店を構えて早6年。地元住民だけではなく、遠くからも足を運ぶ人が絶えない本屋さんです。博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんと共同経営するブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんは店舗経営のみならず、さまざまなプロジェクトにかかわり活躍されています。本屋になりたい人や本屋として迷いを抱く人たちの道しるべとなるような著書も多い内沼さんにお話をうかがいます。
── 2017年12月に店舗を移転しましたが、以前のお店が手狭になったからでしょうか。
前の店舗は元々建物を取り壊すことが決まっていて、あのタイミングで出る契約だったのです。同じ下北沢で移転先を探していたら、前の店から近いところに物件が見つかりました。うちは毎日トークイベントをしているのですが、人気のゲストだとすぐにチケットが売り切れてしまいます。移転して広くなったので、以前は貸し切りにしてもお客さんが60人くらいしか入らなかったのが、いまは110人くらいまで入れるようになりました。より多くの人を迎えられるようになりましたし、できることも広がりました。

── 移転してから、変えたところはありますか?

店の真ん中にある棚を可動式にしたことで、イベントの人数や内容に応じて店内のレイアウトを変えられるようになりました。入ってすぐ右手の壁二面を空けて、原画展や写真展ができるようギャラリーにしたのも、ここに越してきてからです。移転してからまだ半年、始めたばかりなのでいろいろと試している段階ですが、空間も壁もフリースペースを作ったことで、活用の幅が広がりました。自由な空間から自由な発想が生まれて、これまで以上におもしろい企画ができるんじゃないかと期待しています。
── 著者を招いてのトークイベントだけではなく、英会話教室や編集塾などのセミナーもあるのですね。
オープン当初から毎日イベントを開催することは決めていましたが、英会話や編集塾は途中から始めました。お店って日々営業するなかで、ずっと変化していくものなので、よりよくしようと考えているとどんどん企画が生まれてきますし、毎日トークイベントに来る方々からヒントをいただくこともある。店舗運営や選書は店長と副店長の2人、イベントの企画は主担当の3人が中心となっていて、それぞれと日々メールでやり取りしつつ、毎週定例で打ち合わせをして、あらゆることを決めていきます。
“おもしろいもの”と出合える店であり続ける
── 以前からインターン制度があるようですが、その後、独立して本屋を始める人は多いですか?
学生インターンの場合は、大学を卒業してから出版社に就職する人が結構います。社会人インターンで経験を積んでから独立した人はたくさんいて、いま、広島で本とうつわの店「READAN DEAT(リーダンディート)」をやっている清政光博(せいまさ・みつひろ)さんも初期の頃のインターンです。最初から「広島に帰って本屋をオープンする」という明確な目標をもって、期間を2年と定めて、もうひとつ別の書店でも働いて経験を積んでいました。ぼくもスタッフも広島に行くときは必ず顔を出したりして、ずっと関係が続いています。

── こちらではどのようなコンセプトで本を選んでいるのですか?

一般の書店ではあまり見かけない出版流通に乗っていない本でも、自分たちがいいと思うものを発見して、きちんと打ち出していくことを大切にしています。探している本がはっきりしているならAmazonや大型書店で買えばいいですし、どの書店でも大プッシュしているものを、わざわざうちがやる必要はないとも感じています。探しているものは見つからないかもしれないけれど、そこに行ったら思いがけず何かおもしろいものに出合える。そんな店であり続けたいと思います。
メディアとしての「本屋」という視点
── 最近は店づくり、場づくりに関するお仕事が増えているとのことですが。
本屋B&Bをつくったことで、仕事の幅が広がりました。それまでは選書の依頼が多かったのですが、それに加えて、新しいタイプの店や場所そのものをつくる仕事が増えていきました。2014年からディレクターとして関わっている青森県八戸市の「八戸ブックセンター」は、そのよい例です。「本のまち八戸」を推進する拠点として、地方都市の先進的な取り組みが実を結びつつあります。それぞれの場所で求められている「本」の定義はそれぞれ異なります。それに携わる人は、すべて広義の「本屋」だと考えて、そのような人を増やしたいと考えています。
── ということは、内沼さんは広義の「本屋」さんなのですね。
そうですね。自分で選んだ本を読んでもらいたいという気持ちより、いろんな本と人が出合う場所をつくりたいし、それが自分の仕事だと思っています。本と人が出合う場が増えれば、それぞれ好みに合った本を見つけやすくなるでしょうし、そうすることが本の世界全体を豊かにしていくと信じています。そのために、これまでどおり「本屋」として実践を重ねて、これから本屋をつくろうと考えている人や悩みを抱えている本屋さんに広く伝えていくことを続けていきたいと思います。

2017年には出版事業「NUMABOOKS」を立ち上げた内沼さん。「この人の本を出したい」「こんな本があれば」という思いだけではなく、出版社を経営する立場になって、はじめて理解できることもあるはずだと思ったからだとか。この世界に本屋を増やす。その熱い思いは、本屋B&Bをはじめ、内沼さんが携わった数々の仕事や著書を通して、本を愛するすべての人に広がっていきます。


本屋B&B 内沼さんのおすすめ本

『読書の日記』阿久津隆(NUMABOOKS)
東京・初台にある「fuzkue(フヅクエ)」は、店内での会話を禁止するなどいくつか独自のルールを設けることで、本を読むために最適な空間であることにこだわった飲食店です。その店主である阿久津さんの読書日記は、小説のようにおもしろい。なお、ぼくが今日着ているTシャツは「fuzkue」のオリジナルです。

本屋B&B
住所:155−0031 東京都世田谷区北沢2-5-2 BIG BEN B1F
TEL:03-6450-8272
営業時間:12:00 – 23:00
定休日:年中無休(年末年始および特別な場合を除く)
http://bookandbeer.com/


プロフィール
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う「NUMABOOKS」代表。2012年東京下北沢にビールが飲める書店「B&B」をオープン。主な著書に『本の未来を探す旅 ソウル』(共著・朝日出版社)、『これからの本屋読本』(NHK出版)など。


写真 / 千羽聡史
取材・文 / 山本千尋

この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。