せきしろ

#21
想像から物語を展開する「妄想文学の鬼才」として、たとえる技術や発想力に定評のあるせきしろさん。この連載ではせきしろさんが、尾崎放哉の自由律俳句を毎回ピックアップし、その俳句から着想を得たエッセイを書き綴っていく(隔週更新)。21回目は次の2本をお届け。

葬式の幕をはづす四五人残つて居る
  大正一四年 『層雲』二月号 真実不虚(二五句)
今朝の夢を忘れて草むしりをして居た
  大正一三年 『層雲』一二月号 眼耳鼻舌(三七句)
放哉の句から生まれる新たな物語。あなたなら何を想像しますか? 

 葬式の幕をはづす四五人残つて居る
古い友人の夢を見た。高校の時に同じクラスになって知り合って、卒業して上京し、20代前半くらいまでなにかと一緒にいた友人である。
夢の中の友人は頻繁に一緒にいた頃の風貌だった。朝まで話したり、飲んだり食べたり、ライブに行ったり、たまに将来の話をしたりしていた頃の友人だった。若かった。楽しそうにいろいろ話してくれて、私はそれを聞いていた。
この友人とはある時から疎遠になる。ちょっとしたことから会わなくなって、その後、死んでしまうのだ。
だから私は「こいつ、死んじゃうんだよなあ」と思いながら話しを聞いていた。なんだかタイムスリップした感覚だった。私はある程度の未来を知っているが、友人は知る由もない、そんな状態である。
「なんとかこいつが死ぬのを阻止できないのかな」
そんなことを思っていると、友人は唐突に未来の話をしてきた。細部までは覚えていないが「また二人で何かしよう」みたいなことを言っていた。それを聞いた私は友人とできるだけ一緒にいようと思った。あの時は疎遠になったが、私は歳を重ねて多少のことは許せる大人になっているから大丈夫だ。友人が話す未来にできるだけ近づくようにサポートしながら死ぬまで一緒にいようと決意した。
そう決めた瞬間目が覚めた。内容を覚えている夢などあまりないもので、たとえ覚えていても断片的であったりするが、この友人の夢はひとつの物語として覚えていた。
どうしてこんな夢を見たのだろうか。もしかしたら今日は友人の命日だったのかもと思って調べたら全然違った。


 今朝の夢を忘れて草むしりをして居た
いまだに見る夢というのがある。たとえば学校の夢。学校に通わなくなってもう30年以上経つというのに見るのだ。
さすがに歳月とともに頻度は少なくなっているものの、私と同世代でまだ学校の夢を見るという人はいるのだろうか? もしや私だけなのではないだろうか? 誰かが調査してくれることを待つしかない。
学校の夢で多いのは、久々に登校するというシチュエーションで、「ずっと部活に行ってないけど、その間にみんな上手くなっていて、かなり差がついてしまったのでは……」と心配になるか、「随分授業を受けていないが卒業できるのだろうか……」と不安になるというものだ。
目覚めると「また学校の夢を見たなあ」とぼんやりと思い、起き上がることなくそのままの状態で詳しい内容を思い出そうとするも、みるみるうちにさーっと次々忘れていって、やがて夢のことすら忘れ、今日は何か締め切りがあっただろうかと考え、なにもなければもう一度寝るのである。
他にもよく見る夢があって、目の前のデパートやマンションのような大きい建物を通り抜けぬけて向こうに行こうとするのだが、その建物からなかなか出られないという夢だ。見覚えあるような建物であったり、そうでない時があったり、それらが合わさっている時など様々だが、夢はそういうものであろう。あとは、私は車の運転ができないのになぜか運転しなければいけない夢だ。だいたいはいきなり運転席にいることが多い。運転免許証を取ればこの夢は見なくなるのかと考えたが、この年齢で取ったところですぐに返納することになる。
残りはゾンビから逃げる夢である。

『放哉の本を読まずに孤独』(春陽堂書店)せきしろ・著
あるひとつの俳句から生まれる新しい物語──。
妄想文学の鬼才が孤高の俳人・尾崎放哉の自由律俳句から着想を得た散文と俳句。
絶妙のゆるさ、あるようなないような緊張感。そのふたつを繋ぎ止めるリアリティ。これは、エッセイ、写真、俳句による三位一体の新ジャンルだ。
──金原瑞人(翻訳家)

プロフィール
せきしろ
1970年、北海道生まれ。A型。北海道北見北斗高校卒。作家、俳人。主な著書に『去年ルノアールで』『海辺の週刊大衆』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』『たとえる技術』『その落とし物は誰かの形見かもしれない』など。また又吉直樹との共著に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』『蕎麦湯が来ない』などがある。
公式サイト:https://www.sekishiro.net/
Twitter:https://twitter.com/sekishiro
<尾崎放哉 関連書籍>

『句集(放哉文庫)』

『随筆・書簡(放哉文庫)』

『放哉評伝(放哉文庫)』