スポーツ文化評論家 玉木正之

2020年の東京オリンピックに向けて、スポーツを知的に楽しむために── 
数多くのTV番組に出演し、多岐に渡って活躍するスポーツ評論家の玉木正之さんが、文化としてのスポーツの魅力を解き明かす。
第11回では、野球の試合時間について考えます。野球の試合時間は20~30分!?


ベースボール(野球)の試合時間は3時間?
それとも20分?
 これまでさまざまなスポーツについて、「誰もが知っていそうで、じつは多くのひとが知らないこと」を紹介してきた。そのほとんどで、スポーツに関する言葉の問題──バレーボールやドッジボール、サッカーといったスポーツ競技の名称や、トライ、ゴール、スコア、サウスポーといったスポーツ用語など──を取りあげてきた。
 しかし、スポーツに関する「知っていそうで知らないこと」は、言葉の問題だけではない。たとえば、野球の試合時間。それがいったいどのくらいの時間なのか、あなたはご存じですか? プロ野球ファンの人なら、それは即座に「3時間前後かな」と答えるにちがいない。さらに詳しいプロ野球ファンなら、「昔は短くて2時間半くらいだったけど、最近は徐々に長くなってきて3時間を超えるようになった」と答えるだろう。
 たしかにそれも「正解」で、2018年の平均試合時間は、9イニングで試合が終わった場合、3時間13分。延長戦を加えると3時間18分というデータを、NPB(日本野球機構)が発表している。2000年代に入ってからも、おおよそこのくらいの試合時間で推移している。だが、約70年前の1950(昭和25)年、それまで1リーグだったプロ野球が、セントラルとパシフィックの2リーグに分裂した。それ以降さまざまな記録が残されるようになったのだが、そのときの平均試合時間は、セ・リーグで1時間44分、パ・リーグは1時間45分だったという。
 つまり、プロ野球の試合時間は約70年のあいだに、約2倍に延びてしまったのだ。宇佐美徹也『プロ野球記録大鑑』(講談社)によれば、パ・リーグの試合時間が1954(昭和29)年に2時間を突破。セ・リーグは3年後の1957(昭和32)年に2時間を突破し、その10年後の1967(昭和42)年にセ・パともに2時間30分を突破。そして1980(昭和55)年に、パ・リーグが3時間を突破し、3年後の1983(昭和58)年にセ・リーグも3時間超えとなった。
 昔に較べて、投手と捕手のサイン交換が複雑になり、投手の投げる変化球も多種多様になったため、打者がファウルを打つ回数も増えた。ベンチ(監督)からのサインも複雑になり、代打・代走・守備固めの選手交代・投手交代などなど、試合時間が長くなる要因が増えたのは確かだ。が、それらは、ほとんどがボールデッドの状態、つまりプレイ中の出来事ではないのだ。
 そこで実際にプレイしている時間を測ってみると、じつは試合時間が1時間半だったときも、3時間を超えたときもさほど変わらず、20~30分しかないらしいのだ。投手がボールを頭上に振りかぶる動作(ワインドアップ)を開始して、投げて、ボールかストライクとコールされるまで約3秒。両チームの投手が合計300球投げるとして900秒(15分)。そのうち、ランナーが出てセットポジションを取ったケースが、多めに数えて20回あったとしても、200秒(約3~4分)。ホームランが出たとしてもプラス3秒程度。三塁打がいちばん長いプレイで約10秒。両チームで合計20安打として……といった具合にイロイロ計算してみても、せいぜい合計30分なのだ。
 試合時間が3時間を超え始めた一時期のプロ野球は、「打者は打席を外さないように」とか「ベンチからピッチャーズマウンドに行くのは、1イニングに1投手につき1度」とか、さまざまな試合時間の短縮化が呼びかけられた。が、最近では地上波テレビの中継も少なくなり、ファンも長い試合を、応援歌をうたいながら楽しむようになった。そのため、長時間試合に対する批判の声は鳴りを潜めるようになっている。
 が、少々困っているのがオリンピックなどの国際試合で、長い試合時間はスケジュールの消化に支障を来しかねない。そこで2020年の東京オリンピックでは、9イニング制の野球を7イニング制にしようという声もあるのだが、あなたはどう思いますか? 私は大の野球ファンですが、それもまたオモシロイのでは……という考えです。1845年に始まったころは、20点(スコア)を超えれば勝利だったベースボールが、12イニングになり、1857年には9イニングになった。そろそろ、新しいルールになってもおもしろいかも……!?
 そういえば現在、前後半45分ハーフのサッカーを、30分ハーフに変更しようという動きがあるらしい。これは、ボールがフィールドの外にあるボールデッドのときには確実に時計を止め、ボールが動いているインプレイの試合時間を有効に使えば、現在よりもきちんとした試合になるという考えらしい。あなたは、どう思いますか?


この記事を書いた人

玉木正之(たまき・まさゆき)
スポーツ&音楽評論家。1952年4月6日、京都市生まれ。東京大学教養学部中退。現在は、横浜桐蔭大学客員教授、静岡文化芸術大学客員教授、石巻専修大学客員教授、立教大学大学院非常勤講師、 立教大学非常勤講師、筑波大学非常勤講師を務める。
ミニコミ出版の編集者等を経てフリーの雑誌記者(小学館『GORO』)になる。その後、スポーツライター、音楽評論家、小説家、放送作家として活躍。雑誌『朝日ジャーナル』『オール讀物』『ナンバー』『サンデー毎日』『音楽の友』『レコード藝術』『CDジャーナル』等の雑誌や、朝日、毎日、産経、日経各紙で、連載コラム、小説、音楽評論、スポーツ・コラムを執筆。数多くのTV番組にも出演。ラジオではレギュラー・ディスクジョッキーも務める。著書多数。
http://www.tamakimasayuki.com/libro.htm
イラスト/SUMMER HOUSE
イラストレーター。書籍・広告等のイラストを中心に、現在は映像やアートディレクションを含め活動。
http://smmrhouse.com