本が持つ役割や要素をアート作品として昇華させる太田泰友。本の新しい可能性を見せてくれるブックアートを、さらに深く追究するべく、ドイツを中心に欧米で活躍してきた新進気鋭のブックアーティストが、本に関わる素晴らしい技術や材料を求めて日本国内を温ねる旅をします。
プロフィール

太田 泰友(おおた・やすとも)
1988年生まれ、山梨県育ち。ブック・アーティスト。OTAブックアート代表。
2017年、ブルグ・ギービヒェンシュタイン芸術大学(ドイツ、ハレ)ザビーネ・ゴルデ教授のもと、日本人初のブックアートにおけるドイツの最高学位マイスターシューラー号を取得。
これまでに、ドイツをはじめとしたヨーロッパで作品の制作・発表を行い、ドイツ国立図書館などヨーロッパやアメリカを中心に多くの作品をパブリック・コレクションとして収蔵している。
2016年度、ポーラ美術振興財団在外研修員(ドイツ)。
Photo: Fumiaki Omori (f-me)

                      


<ブック・アーティスト 太田泰友の連載>

2020年5月19日
本をたずねて、ブックアートを知る(24)
約2年間にわたって続いてきたこの連載も、今回が最後です。前回に引き続き、うらわ美術館を訪れた、ブックアートを温ねる旅で締めくくりたいと思います。うらわ美術館学芸員の滝口明子さんにお話を伺いました。

2020年4月24日
本をたずねて、ブックアートを知る(23)
大学4年生の冬に訪れたある展覧会が、僕にとって今でも特別な存在になっています。これからの本づくりを考えながら進めていた卒業制作の真っ只中で、うらわ美術館の「これは本ではない―ブック・アートの広がり」展(2010年11月〜2011年1月)のチラシを見つけました。「ブックアート」という言葉を…

2020年2月25日
本をたずねて、ブックアートを知る(22)
2004年に「NPO法人 書物の歴史と保存修復に関する研究会」を立ち上げるなど、常に新しい世界の情報を取り入れながら、日本で本の修復を普及してこられた板倉正子さん。僕が板倉さんの活動を調べていたときに、研究会のウェブサイトにある、NPO法人の設立趣旨の中で特に印象に残ったフレーズがあり…

2020年1月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(21)
いろいろな要素が集合してできている〈本〉。その中で最も〈本〉を〈本〉らしく見せている要素が〈製本〉かもしれません。本にとって、紙はたいていの場合必要不可欠な存在ですが、紙のままでは本ではありません。印刷も、本を語る上では欠かすことができない技術ですが、印刷のままでは本ではありま…

2019年11月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(20)
写真印刷の技術として広まっていったコロタイプは、卒業アルバムやポートレート、絵葉書などを中心に広く用いられるようになりましたが、新しい技術の登場によって、その立ち位置を取って代わられるようになりました。便利堂の印刷技師、コロタイプマイスターの山本修さん(1960年生まれ)が小学校卒…

2019年10月25日
本をたずねて、ブックアートを知る(19)
本をつくる工程上、欠かすことができないものの一つが〈印刷〉ですが、一言で〈印刷〉といっても多様な選択肢があることも大きな特徴だと感じます。その中で、今回温ねたのは、「コロタイプ」です。「コロタイプ」と聞いてピンとくる人は、他の印刷技術と比べてかなり少ないのではないかというのが…

2019年9月26日
本をたずねて、ブックアートを知る(18)
箔押し師の中村美奈子さんが手がけたお仕事の中に、30冊限定の私家版ルリユール作品に箔押しをしたものがありました。ルリユールは、一点ものの作品であることが多く、このシリーズは、一点もののルリユールと、機械製本の間のような感覚だったそうです。一点ものではない作品が複数の人々の手に渡る…

2019年8月27日
本をたずねて、ブックアートを知る(17)
フランスでの創作活動を経て、日本に帰国した中村美奈子さんは、フランス滞在中に知り合った日本人とのつながりをきっかけに、日本で箔押しの依頼を受けることになりました。そこから少しずつ依頼が増え始め、今では日本の多くの製本家や、製本を学ぶ教室の生徒が、製本した本への箔押しを中村さんに…

2019年7月23日
本をたずねて、ブックアートを知る(16)
中村さんは、フランスへの留学を決意した当初、パリが好きで、住むことによって憧れのパリを嫌いになってしまわないようにと、まずリヨンの語学学校に行くことにしたそうです。このお話を伺った時に、僕は自分のドイツでのブックアートの出合いに通じるものを感じ、親近感を持ちました。僕は、20…

2019年6月24日
本をたずねて、ブックアートを知る(15)
「箔押し」という言葉を、なんとなくではあるのですが、以前よりもよく聞くようになったのではないかと感じます。伝統的な工芸製本を思い浮かべると、その表紙には豪華な装飾として箔押しが必ずあるイメージがあって、僕が製本に興味を持ち始めた頃は、箔押しは僕の憧れのような存在でした。一方で…

2019年5月24日
本をたずねて、ブックアートを知る(14)
「シルクスクリーン印刷を用いた作品」と聞くと、一枚ものの作品を想像する方が多いと思います。僕もそのうちの一人です。「印刷」という点で、シルクスクリーンと本が結びつき得ることは、当連載第12回でも触れましたが、「一枚もの」と「本」で決定的な違いとなってくるのは枚数でしょう。

2019年4月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(13)
1970年代に日本の版画界が賑わいを見せ、作家と工房が協力してシルクスクリーンによる作品制作の追究が続く中、1990年代に入ると、コンピューターが普及し始め、写真製版技術の向上などによってシルクスクリーンの表現の幅も広がることとなりました。ここまでシルクスクリーンの進化は、技術の発…

2019年3月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(12)
〈本〉というメディアが持つ特徴において、特に見逃せないものが〈印刷〉です。印刷は、情報を載せるために必要な技術であり、印刷術の発展によって本も多くの人々にとって身近なものとなり、日常から切り離せないものにまで進化を遂げました。そういう意味で、〈印刷〉というのは、〈本〉を考える上…

2019年2月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(11)
白谷さんからカリグラフィーのお話をたくさん伺ってきて、カリグラフィーがこれまでにどのように歴史と関係しながら根付いてきたのか、とても意識させられたのですが、白谷さんはカリグラフィーの今日の状況をどのように見ていらっしゃいますか?/(白谷)カリグラフィーの表現の多様化をとても感じ…

2019年1月21日
本をたずねて、ブックアートを知る(10)
本に関わるところで「文字」というと、「カリグラフィー」の他に「タイポグラフィー」がありますよね。「タイポグラフィー」という言葉も、最近ではよく聞くようになったように感じます。両者の関係をどのようにご覧になっていますか?印刷書体と手書き書体、一見相反するもののように感じますが、近…

2018年12月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(9)
カリグラフィーが本という形で作品になっているものがありますよね。
カリグラフィーには写本を参考にして考えられてきた一面があるということでしたが、写本を元にカリグラフィーが発展して、そのカリグラフィーをまた本にするという流れをどのように見ていますか?


2018年11月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(8)
あるとき、ものすごく集中をしてカリグラフィー作品を書いていたときに、ふと「これは何かの感覚に似ている」と思ったんです。それは若いころに書の練習をしていたときのあの感覚でした。一瞬周りが見えなくなって、無音状態の中にいるような文字の世界に引き込まれていく感じです。自分の中で「書」…

2018年10月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(7)
本は、様々な材料や要素が集合してできていますが、情報を伝えるためのメディアとして登場して、その内容を文字によって読者に伝えることを得意としてきました。「本」と聞いて、最も特徴的な要素を「文字」と思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。僕がドイツのブルグ・ギービヒェンシュタイ…

2018年9月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(6)
ロギールさんは和紙だけでなく、ヨーロッパ生まれのコットンペーパー作りにも取り組んでいます。ロギールさんが作るコットンペーパーは、こだわりのオーガニックコットンを縫製工場から仕入れて原料としています。コットンペーパー作りに使えるようにするため、原料を細かくするのに用いるのが…

2018年8月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(5)
かみこやに到着してから帰るまで、食事の時間とコーヒータイム以外の時間は、ほとんどロギールさんの紙漉き作業に付ききりで、その技術と極意を見せてもらい、追究されてきた知識と志を聞かせてもらっていました。夕食をいただいて、また漉き場に戻り、その日の作業を全て終えた後、ロギールさんと…

2018年7月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(4)
叩解(こうかい) さらしが終わったら、原料の中で細かなキズや混ざっているチリなどを手で取り除きます。原料の繊維は、繊維同士でくっつきたがるような性質があります。かたまりになっている原料を木槌で叩き、一度繊維同士をはがし、ばらばらにするのが「叩解」です。紙を漉くときには、繊維が…

2018年6月20日
本をたずねて、ブックアートを知る(3)
テラスにいると、どこからともなくせせらぎが聞こえてきます。四万十川が源流のきれいな水と密接な関わりを持つロギールさんの紙漉きのことを想像させられました。梼原の空気に心地よさを感じながら待っていると、ロギールさんが紙漉き場から出てきました。事前に何度か電話で話したことはありま…

2018年5月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(2)
本は、たくさんの材料や技術からできていますが、今回、旅の最初に温ねたのは「紙」です。高知県に暮らす手漉き和紙作家、ロギール・アウテンボーガルト氏を訪れてきました。「高知の和紙」を旅のスタートに選んだのには訳があります。僕が1歳の時に亡くなった祖父がいるのですが、僕はその祖父に…

2018年5月22日
本をたずねて、ブックアートを知る(1)
僕は日本で本づくりを始めました。ドイツでブックアートと出会い、向き合って深めてきました。そして今これから日本を拠点にブックアートの制作活動を展開していこうとしています。ブックアートに関わり得る日本のいろいろなことを、なんとなく知っているような気になっていることを、改めて…

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