ネット通販の普及と活字離れの影響で、昔ながらの街の本屋さんが次々と姿を消しています。本を取り巻く環境が大きく変わりつつある今、注目されているのが新たな流れ“サードウェーブ”ともいえる「独立系書店」です。独自の視点や感性で、個性ある選書をする“新たな街の本屋さん”は、何を目指し、どのような店づくりをしているのでしょうか。



2018年5月、小社サイトリニューアルの際にスタートした当連載は、おかげさまで連載第40回を数えました。今回は、今までに公開した記事を振り返りながら、“街の本屋さん”が何を目指し、どのような店づくりをしていたのか、感じたことを語り合いました。

【参加者】(敬称略)
執筆担当 山本 千尋
撮影担当 隈部 周作(株式会社 イメージ・ジャパン)
春陽堂書店編集部より 堀 郁夫
── 実際に現場でお話を伺う前と後で「独立系」という言葉のイメージは変わりましたか?
山本千尋(以下、山本) イメージが変わったというよりも、お店のカラーやそのバリエーションが想像以上に豊かだったところが気付きというか発見でした。
隈部周作(以下、隈部) 個性的な人がされているんだろうということは思っていました。実際行ってみると、個性的なだけじゃなくて、それぞれがみな独特の哲学を持っている。その人の「好き」というものが表現されている場なんだなあと感じました。そして営業スタイルも多様だなと思ったんですね。副業的にされている方もいらっしゃったり、営業は週末だけだったり、”本屋さん”はずっと開いてるイメージだったんですが、そうではないスタイルも有るんだと驚いたところはあります。
堀郁夫(以下、堀) 自分好みのお店以外にも、様々な独立系書店があることを知ることができたのは発見でした。ジャンルが変わると工夫する点も変わる。書店の形の多様性を感じることが多かったですね。
山本 本が好きで本屋をはじめた人ばかりではなく、生活の為に始めたとかいろんなパターンの人がいますけど、それでも、それぞれに哲学があって、お店もそうだけど、人自体が本当に個性的で魅力的だったなあと思います。
── 実際に足を運んで、事前情報から印象が変わったお店はありましたか?
山本 (前情報では)店主さんがちょっと気難しい感じがして、お話が弾むかなと心配しながらお店に行くと意外に大丈夫だった、というのはよくあるパターンですし、お店の形態に関しては、幕張の『本屋lighthouse』さんのような小屋で始めたお店もあれば『BOOK SHOP無用乃用』さんのような入り口探しから始まるお店もあって、もうどんな店でも驚かないというか、どこでも本屋ってできるんだという感覚が出てきたところもありました。

甘夏書店(東京・向島)

隈部 よくこの立地にお店を作ったなと思うお店はありました。ビジネス的に考えたら、人通りもないし、近所の人はあり得るとしても、たまたま訪れるってそうないんじゃないか、立地条件として難しいんじゃないかというところに敢えて作っていたりする。1階じゃなく2階、3階だったり、入り口もわかりにくかったり、あとは、入口がちょっと怖くて入りにくいところとかもあって…。でも中に入ってみたらギャップが広がっていました。『BOOK SHOP無用乃用』さんもそうでしたし、向島の『甘夏書店』さんは、交差点にあるとはいえカフェを通って2階に行くといった、他の本屋さんと違うアクセスだったのが印象的でした。
山本 (お店に行くのに)手間が掛かるがゆえに隠れ家感というか、行きつけになったら居心地がよさそうですよね。
── 特に印象的なところはありましたか?

Title(東京・荻窪)

山本 どの本屋さんもそれぞれに魅力があって印象深いんですが、第1回の『Title』さんは特に印象的でした。お店に入った瞬間から、佇まいが…昔の建物を生かされてるというのもあるんですけど、初めてなのにどこか懐かしい感じがして、全部新刊なのに古本屋さんにいるような、不思議な感覚に包まれました。そこにお店のイメージそのままの風貌の店主・辻山(良雄)さんが出てきた、その場面までよく覚えています。

BOOK SHOP 無用之用(東京・神保町)

隈部 陳列面では『無用之用』さんのカテゴリが印象的でした。推薦の仕方なども独特だなと思いましたし、大手の書店さんとは違うカテゴリで並んでいて、陳列もとても綺麗でしたし、よく覚えていますね。
── 『忘日舎』さん、『BREW BOOKS』さん、『旅の本屋のまど』さんなど、複数回訪れた街・西荻窪のような、たくさんの本屋さんが散在している街の印象はありますか?
山本 取材前後はできるだけその街を歩くようにしていて西荻(窪)は何度も路地も含めて歩きましたが、本屋に限らず個人経営のお店が圧倒的に多くて、街自体が魅力的だと感じましたね。蕎麦屋さん、ラーメン屋さん、洋食屋さんが有って…というように、本屋さんもそれぞれのカラーを活かして共存している。文化度が高い街だなと、行く度に思います。
隈部  “本”は喫茶店との組み合わせが多いと思っていて。西荻とか神保町とか、本が多い街は本を読める昔ながらの喫茶店といった感じのところが充実している印象があって、そういう街は文化が育ちやすいのかなと。後は散歩がしたくなるなという印象がすごくありますね。
 中央線の西荻窪周辺は、昔ながらの文化の香りが残っていますよね。「これっていいものだ」という価値観が残っているというか。そういった文化的な土壌があるというのは大きいと思います。
── 2019年には京都のお店を取材しました。京都という街は如何でしたか?
山本 西荻の印象で出た部分がそのまま京都にもあります。昔から複数の大学がある学生の街でもあるし喫茶店も勿論多いし。それほど大きくない街にずっと大学が在ってずっと学生がいて…という場所で、引き継がれてきているところがあるなあと思います。
“独立系”書店のパイオニアとも言われる『恵文社 一乗寺店』さんは1975年にこの形態を始めていて、先見の明というか、それが今もなお続いているところで、お店に入って神聖なものを感じました。

恵文社 一乗寺店(京都・一乗寺)

 そうですね。噂は方々で聞いていた、伝説的なお店ですよね。話を聞いてみて、店主が代替わりしてもスタイルをちゃんと維持しているのが強みだなと感じました。それまでの歴史や経験値を積み重ねている書店だなと。

あと『CAVA BOOKS』さんが印象深いです。映画館と併設された書店というのも面白いですし、店主の宮迫(憲彦)さんと話をしていて、その働き方にも興味を持ちました。本にかかわる「生き方」を選んでいる、という印象を受けて、いいなと思いました。本屋としてという以上に、生活の仕方だったり、所属する会社との付き合い方だったりも含めて、すごく印象に残っていますね。

── 本屋さんとの対比で思い出す街はほかにありますか?

SUNNY BOY BOOKS(東京・学芸大学)

山本 絞りきれないくらいたくさんありますね。関東大震災(1923年9月1日)と東京大空襲(1945年3月10日)の日には両国の『YATO』さんを思い出しますし、東洋文庫が話題にのぼると駒込の『BOOKS青いカバ』さんがセットで出てくるくらい。学芸大学前と言えば『SUNNY BOY BOOKS』さん、小石川は『Pebbles Books』さん、目白・池袋界隈なら『ブックギャラリーポポタム』さんというように、私の中で本屋さんと街は強く結びついています。
隈部 パッと思い出すのは『本屋イトマイ』さんのときわ台です。ときわ台は行ったことがなかったんですが、街からすると相当おしゃれな本屋さんなんじゃないかなと思いました。

本屋イトマイ(東京・ときわ台)

── 本屋を始めるにあたり、業種を問わず様々なつながりを感じたお店もありました。
山本 本屋さん同士のつながりもこんなにあるのかと驚きました。ご自身で本を出している『Title』の辻山さんをはじめ、同じく著作もある『本屋B&B』の内沼(晋太郎)さんや『双子のライオン堂』の竹田(信弥)さんは講座をなさっているということもあって、このお三方の名前は本当によく出てきました。

本屋ighthouse(千葉・幕張)

それ以外にも『本屋lighthouse』さんに有ったすのこ・・・の展示台に見覚えがあって、尋ねたら『H.A.Bookstore』さんからもらってきたと。そんなところにも繋がりがあるんだなって。おたがいに影響を与えて受けてというのをずっと繰り返していらっしゃるんだろうなあというのを感じましたね。
 ゆるやかな横のつながりがありますよね。
山本 よいものはちゃんと共有しようっていうのと、“本屋”という形態を残そうという意思というか、届けようという想いが皆さんに共通するところで団結力が生まれているのかなと。
── 取材時に気を付けている点などはありますか?
山本 お店に行ったことがない人がその記事を見て、行ってみたいと思ってくれるような記事にしたいなとは思っていて、特徴もそうですけど、お店の人の人柄って個人店の場合、特に大事じゃないですか。『Cat’s Meow Books』の安村(正也)さんが「本屋は個人商店の極み」って仰って、なるほど!と思いましたね。それがうまく出るようにとは気にしながらお話を聞くようにしていますが、足りないところがあったなといつも反省しきりです。
── 取材の中で印象に残った一言のひとつですかね。

八木書店(東京・神田)

山本 そうですね。振り返ってみると(印象に残った一言は)いっぱい有りましたが、『八木書店』の小谷野(哲矢)さんの言葉で圧倒的に強く刷り込まれてるのが「本屋をやろうとする人は本屋という生き方を選んでる」。これはもう、大きく頷きましたし、その言葉を聞いたときに今まで聞いた店主さんのお顔が浮かんできました。

本屋ロカンタン(東京・西荻窪)

それで一番ガツンと来たのは、「本屋を実際にやってみてどうでしたか」と聞いたときの『本屋ロカンタン』の萩野(亮)さんの答えで。「こんな幸せな仕事って他にありますか」と聞いたとたん、ジーンと来て、思わず泣きそうになりました。本屋としての生き方を選び、それを幸せだったと感じている人を目の前にして、一人の本好きとして嬉しかったです。
── 隈部さんは、お店を撮影されていて印象に残った1枚はありますか。
隈部 本とは直接関係がないのですが、『ポルベニールブックストア』さんのツバメの写真です。

ポルベニール ブックストア(神奈川・大船)

ツバメってひとが有るところに巣をつくるじゃないですか。ちょうど僕らの取材の日が、ツバメが巣を作り始めた1日目か2日目というタイミングだったと思うんですよね。お店の中にはペンギンがマスコットキャラクターみたいに居て、それとツバメが似てるという話も出て、人が集まる場所に鳥とか動物も集まってるというのがなんかすごく温かい気がして、そこはとてもよく覚えています。
── 最後に、あらゆる業界がとても大変な状況に置かれている今、本屋さんへエールをお願いします。
山本 私なんかがおこがましいのですが、「どうかずっと続けて下さい」と心から思います。「あの店好きだったのに無くなっちゃった」みたいなことを言ってるのを見聞きすると「それはあなたが行かないからでしょ」っていつも思うんですけど、それと同じで、本屋さんが無くなってほしくなかったら、やっぱり本屋さんで本を買わなくちゃいけない。取材などで急いで読まなきゃいけない場合はネット通販で買うこともありますが、そうじゃないときは、メモしておいて実際の本屋さんで買う。とても小さなことですが、これからも続けていきます。
隈部 僕は高校生くらいの頃は毎日本屋さんに行ってたんですよね。本によって進学先も決まったり、住む場所も本に影響を受けた部分も有るので、そういった意味で本の影響ってすごく大きい。そういう人は、多分、ほかにもいっぱいいると思うんです。そこでの出合いはいろいろ有るので、本屋さんにはどんどん盛り上がってもらいたい。そこからいい循環が生まれて、本好きになったり、本が人生が変わるきっかけになる人がいっぱい出てくると思うので、その拠り所になっていってほしいと思います。単なるインフォメーションとして受け取るのではなくて、実際に本を手に取れるのがいいし、本屋に行くと感じる匂いとか、中で流れている音楽とかそういったものもいいなって思えますし。

ホホホ座 浄土寺店(京都・浄土寺)

 『ホホホ座 浄土寺店』の山下(賢二)さんが「うちは土産物として本を売っています」というような話をしていたのをすごく覚えています。どこでこの本を買ったのか、という思い出がパッケージングされたものにもなるのが、「本のおもしろさ」なのだなと。
今、書店を立ち上げてやってらっしゃる皆さんは、「独立系書店」というより「街の本屋」という意識が強いんだなということはとても感じました。個人の書店がこれからどんどん増えていって、それが「普通の街の本屋さん」になったらいいですね。「生活の導線にある」本屋さんがこれからも増えていってほしいです。
山本 青山の『山陽堂書店』さんは明治時代に御屋敷に出入りする本屋さんから始まり、界隈に美容室が多いこともあって、雑誌が売れてる時代には扱う比率が雑誌7割だったそうですが、「あ、時代が変わったぞ」となったら仕入れ方式まで変えて、今もそこに在り続ける。

山陽堂書店(東京・青山)

これこそ理想の街の本屋さん。取次から一斉配本される、雑誌が強烈に売れてた時代が特殊で、本屋さんの歴史から考えたら、今の形こそがもともとあった“街の本屋さんのカタチ”なんじゃないのかなと思ったりもしますよね。
 実際問題、書店だけではなくて、出版業界全体の経営はかなり厳しくなっていると思います。でも、その中で、書店も、そして出版社も、独立して立ち上げる人が増えている。そこには、生活のためでもある一方で、本というものに希望やある種のロマンをもって、やっているのだと思います。そんな書店や出版社が残り続けるような業界になってほしいですね。「頑張ってください」というよりも、「頑張りましょう」という思いが強いです。
話は尽きず、いかにバラエティに富んだ、貴重な取材の積み重ねだったかを再認識した時間となりました。
改めて、お忙しい中でこれまでに取材させていただきました本屋の皆様を筆頭に、記事を読んでくださった方、そして記事制作に関わった全ての方への感謝を胸に、これからも、お店の数だけ生まれ、共存していく“本屋のカタチ”を尋ねていきます。

『明日へ続く本屋のカタチ』制作陣による春陽堂書店のおすすめ本

『寺山修司の〈歌〉と〈うた〉』齋藤愼爾、白石征、渡辺久雄・編
歌人、劇作家、詩人、そして舞台や映画などで数々の作品を残し、寺山修司がこの世を去って38年。短歌100首・俳句100句にはじまり、エッセイや鶴見俊輔、山田太一らの追悼文、岡本太郎や三島由紀夫らとのヒリヒリする鼎談・対談などがまとめられたこの本は、寺山がいかに多才で、その47年の生涯が多彩であったかが凝縮されていて、そのパワーと奥深さに圧倒されました。(山本)

『旅する少年』黒川創・著
どうやっても、もう訪れることができない昔の日本が、匂い漂ってくるような描写で描かれていて心がざわざわしました。
昔の路線図や電車の描写も有って、時代を感じるというか、懐かしいというか。
僕がまだ生まれていない時代の日本を旅していることへの羨望の想いと共に、「その場所の今」を見るために旅がしたくなる、旅情かき立てられる1冊です。(隈部)

プロフィール
山本千尋(やまもと・ちひろ)
1972年、滋賀県生まれ。日本語教師、雑誌編集、広告代理店での勤務を経て、現在はフリーランスのライター・編集者として活動中。

隈部 周作(くまべ・しゅうさく)
1978年、熊本県生まれ。プロデューサー、フォトグラファー、株式会社イメージ・ジャパン 代表。大学卒業後、上場コンサル企業を経て、映像ビジネスの世界へ。「成長循環の仕組み」づくりのため、戦略立案からブランディング、クリエイティブ制作までトータルに手がける。
この記事を書いた人
春陽堂書店編集部
「もっと知的に もっと自由に」をコンセプトに、
春陽堂書店ならではの視点で情報を発信してまいります。